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アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、強いかゆみを伴う湿疹が、ひどくなったりよくなったりを繰り返す慢性の皮膚の病気です。
■アトピー性皮膚炎の診断
6か月以上(乳児は2か月以上)、強いかゆみを伴う湿疹を繰り返す場合、アトピー性皮膚炎を疑います。湿疹は体の左右対称にできることが多く、頬や口の周囲、耳たぶのつけ根、首の周囲、腋の下や肘の内側、太ももの付け根や膝の内側などが好発部位です。皮膚の状態は、赤くなったり、盛り上がって湿疹になったり、湿疹をかきつぶしてジクジクして滲出液が出たり、米ぬか状の皮膚がボロボロと落ちたりします。これらの状態を繰り返すうちに皮膚が硬くごわごわする(苔癬化)こともあります。アトピー性皮膚炎はこのような皮膚の特徴から診断を行います。
■アトピー性皮膚炎の発症・悪化要因
1)乾燥肌
アトピー性皮膚炎の皮膚は水分や皮脂が不足しており、うるおいのない乾燥肌のことが多いです。乾燥肌は皮膚のバリア機能が低下しており、外部からの刺激や異物の侵入などにより炎症が起こりやすい状態です。
2)アトピー素因(アレルギー体質)
アトピー素因とは免疫機能が過剰に反応しアレルギー反応を起こしやすい、生まれつきの体質のことです。両親のいずれかがアトピー性皮膚炎があると子どもがアトピー性皮膚炎になりやすいと言われています。またアトピー素因があるとアトピー性皮膚炎以外にも食物アレルギー、花粉症、気管支喘息などのアレルギー疾患を合併しやすい傾向にあります。
3)かゆみ
かすかな刺激でもかゆみが発生しやすく、爪で引っ掻くことにより皮膚が傷つき、炎症が悪化し、さらにかゆみが強くなる、という悪循環(イッチ・スクラッチサイクル)に陥り、しばしばアトピー性皮膚炎の悪化要因になります。
■アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎の治療のポイントは悪化要因である「乾燥肌によるバリア機能の低下」「皮膚の炎症」「かゆみ」をおさえることです。
1)保湿・スキンケア
皮膚のバリア機能を回復させ、外部からの刺激や異物の反応を防ぎます。保湿剤はワセリン(プロペト®)やヘパリン類似物質製剤(ヒルドイド®)を用います。保湿剤はしっかりスキンケアしてから塗ることが大事です。
入浴時のスキンケアの方法
・石鹸はしっかり泡立てて、素手で優しく揉むように洗います。石鹸の泡で汚れを包み込み皮膚から浮かせて水に流すイメージです。タオルでごしごしこすると、保湿に必要な皮脂を削り落としてしまいます。
・すすぎはしっかり行ってください。石鹸が残留すると肌荒れや乾燥の原因になります。
・長風呂に注意しましょう。保湿に必要な皮脂を流出させて乾燥の原因になります。
・肌が乾燥する前に保湿剤を塗布します。入浴後15分以内がベストです。
・保湿剤は少量を伸ばして塗るより、たっぷり皮膚の上に盛るように塗るほうが効果的です。「たっぷり」の目安は塗った皮膚にティッシュペーパーを近づけるとひっつく程度にべたつく状態です。具体的な量は1FTU(1フィンガー・チップ・ユニット)を基準にします。1FTUとは大人の人差し指の先端から第一関節までチューブから絞り出した量が約0.5gになるというおおよその目安です。1FTUすなわち0.5gの外用剤を大人の手のひら2枚分の広さに塗布するのが適当とされています。(後述のステロイドなど他の外用剤の塗る量も同様です。)
2)皮膚の炎症を抑える
・基本はステロイド外用剤を用いて炎症を抑えます。
・ステロイド外用剤は炎症を抑える強さによってI群(ストロンゲスト)からV群(ウイーク)まで5つのグループに分けられています。外来治療でよく使うのはIV群(マイルド;ロコイド®、キンダベート®、アルメタ®)、III群(ストロング:ボアラ®、リンデロンV®)、II群(ベリーストロング:マイザー®、アンテベート®)になります。
ステロイド外用剤の副作用は塗った局所が「皮膚が薄く白っぽくなる」「毛細血管が拡張する」「赤ら顔(酒さ様皮膚炎)になる」「毛深くなる」「ニキビや吹き出物が出る」「白癬(かび)に罹りやすくなる」などの症状がありますが、一過性で、ステロイド外用剤をやめると元に戻ります。顔はステロイド外用剤の吸収がよいため赤ら顔(酒さ様皮膚炎)などの副作用が出やすいのでIV群(マイルド)の強さまでに抑えます。なお色素沈着は長く続いた皮膚の炎症がおさまると黒ずんで見えるもので、ステロイド外用剤の副作用ではありません。(皮膚の状態が正常になれば徐々に改善します。)効果がない(不十分)のに弱いステロイド外用剤を塗り続けて皮膚の炎症が長期間続くより、効果がある強さのステロイド外用剤を使用して速く炎症を抑えて皮膚の状態をよく保つ方が結果的に副作用も抑えられます。
・ステロイド外用剤の塗り方
従来の塗り方は、ステロイド外用剤で湿疹が改善したら保湿剤に切り替え、また湿疹が再燃したらステロイド外用剤を再開するという、症状の悪化に合わせてステロイド外用剤を使用する「リアクティブ療法」でしたが、最近は湿疹が改善した後もステロイド外用剤はやめてしまわないで、1日おき、2日おき、など定期的に間隔をあけて塗り続けて湿疹の再燃を予防する「プロアクティブ療法」のほうが、結果的にステロイド外用剤の使用量が少なくてすむことがわかってきました。
・ステロイド外用剤以外の塗り薬
プロトピック®、コレクチム®、モイゼルト®などステロイド以外に炎症を抑える作用にある外用薬が使えるようになりました。これらをステロイド外用剤と組み合わせることで、ステロイド外用剤の使用量を減らし、皮膚の炎症を抑えた状態に保つことができます。
・デュピクセント®(デュピルマブ)(適応年齢は生後6か月以上)
重症アトピー性皮膚炎の方対象にデュピクセント®という注射薬を使うことができます。デュピクセント®はIL-4(インターロイキン4)とIL-13(インターロイキン13)という物質の働きを直接抑えることで「炎症」「かゆみ」「バリア機能低下」のすべてに対する効果が期待できます。体重によって使用量や使用間隔が異なりますが、2または4週間間隔で皮下注射を行います。効果があると湿疹も抑えられ、皮膚の状態がよくなりますので当然かゆみもなくなります。注射の際に痛みが強めです。副作用で結膜炎を起こすことがありますが多くは一過性で点眼薬治療で解決します。
3)かゆみを抑える
・もちろん、保湿剤やステロイド、注射薬などで1)皮膚の乾燥を抑えること、2)皮膚の炎症を抑えることはかゆみを抑える効果があります。ここでは上記治療に加えてかゆみを抑える方法を紹介します。
・抗ヒスタミン薬の内服
ヒスタミンは血液中を流れる肥満細胞から分泌されてかゆみをもたらす物質です。
抗ヒスタミン薬によってヒスタミンの作用をブロックしヒスタミンによるかゆみを抑えることが期待できます。しかし残念ながらヒスタミンはかゆみを起こす要因のうちの1つに過ぎず、実際内服してもアトピー性皮膚炎のかゆみを抑えきれないことが多いです。(蕁麻疹のかゆみにはよく効きます)かえって副作用の眠気が出ることに注意です。
・ミチーガ®(ネモリズマブ)(適応年齢は6歳以上)
IL-31(インターロイキン31)は神経を皮膚の近くまで伸ばして、普通であれば感じないような弱いかゆみを「かゆい」と感じる状態にしてしまいます。ミチーガ®はIL-31の作用を直接ブロックすることでかゆみ症状を軽減させます。月1回、4か月ほど皮下注射を繰り返すことでかゆみを抑えた状態を維持できるとされています。注射による痛みは強くありません。重要なポイントは、ミチーガ®はデュピクセント®と異なり、かゆみをとるだけで湿疹を改善する力はないということです。副作用で新たな湿疹が出ることもあり(出てもかゆみがないので気づきにくい)、スキンケア(保湿剤とステロイド外用剤)はしっかり行う必要があります。あくまでかゆみによる悪循環(イッチ・スクラッチサイクル)を防ぐ効果と考えてください。
・光線療法
紫外線を専用の装置で照射する治療です。エキシプレックス308®(ターゲット型ナローバンドUVB)は紫外線治療の中でも強い光を患部だけに安全かつ効率的に照射することが可能なため周囲の皮膚にダメージを与えず病変部位のみを治療できます。照射時間も1か所につき数秒程度と短く、広範囲に照射しても1回の治療は5分以内に終わります。副作用で照射した部位に一過性に紅斑や水疱形成などを認めることがまれにあります。効果は1週間ほど持続しますので週1-2回通院で照射する必要があります。ミチーガ®同様、かゆみはとるが皮膚の状態をよくするわけではないのでスキンケアはしっかり継続する必要があります。テスト前など集中したいタイミングでかゆみをとるために短期間治療を受ける、などの活用方法もあります。(保険診療です。)
さいごに
院長が幼少時よりアトピー性皮膚炎と付き合ってきた経験から、当クリニックではアトピー性皮膚炎の治療に力を入れています。上記治療法はすべて当クリニックの外来で行えますので、ご気軽にご相談ください。